千葉県文化会館大ホール開館50周年記念シンポジウム
(2017年7月9日(日) 千葉県文化会館 大ホール)
新市民ホール建設に向けて参考となる内容を含んだシンポジウムと思いましたので、概要以下のとおりご報告します。
縄野光孝(再建連絡会代表、我孫子市民フィルハーモニー管弦楽団)
2017.7.23掲載
〇現在の千葉県文化会館の紹介
・ドローン研究の第一人者である野波健蔵氏(株式会社自立システム研究所CEO)がドローンにより撮影した千葉県文化会館を紹介した。

〇千葉県文化会館の誕生から半世紀〜劇場の計画と設計〜 
 コーディネーター:草加叔也(空間創造研究所代表)
 パネリスト:香山壽夫(東京大学名誉教授)
       清水裕之(名古屋大学名誉教授)
・特徴的な地形を生かしてホールを建設している。
・人と車道を分けている。緑を生かしている。
・建築設計は大高正人によるもの。大高は東京文化会館(1961年開館)を設計した前川國男建築設計事務所に所属していた。同事務所には、丹下健三なども所属していた。
・ホール利用者は20km圏に住む人で、しかも2〜3割程度しか利用しないと言われている。残り7〜8割の人は文化・芸術に関心がないが、そういう人たちに舞台芸術や音楽芸術を知っていただければ、生活が豊かになるのではないか。
・ギリシャ時代から総合芸術はあったが、特別な機会がない時でも出かけようという気にさせる場所であることが大切。一緒にいるということを日常的に確かめることができる場所であってほしいし、公共建築・ロビーはそういう性質をもつ。
・最近の建築物は精密につくられているし、高度なものが求められるが、人と会う、おしゃべりができるといったもの、学校であれば、友達とともに学ぶことのできるような施設であることが必要。千葉県文化会館は公園を維持しているが、これもその意味で大事なこと。
・共に生きる、共にいることを確かめる空間が劇場の中にも必要。京都会館は外に開くことで、レストラン、ブックカフェ、ホワイエなどにいつも人が来るようになり、年間250万人が訪れている(京都という土地柄もあるが)。

〇普段見ることの出来ない舞台機構と照明効果
森平舞台機構株式会社および丸茂電機株式会社より説明があった。
・緞帳は幅19.5m、高さ12.5mで重さは1,200kg、パイプなどを含めると,500kgになる。ピットは1.5mの深さになる。
・舞台照明はハロゲンからLEDになり、消費電力が1/5〜1/10になった。またハロゲンではできなかったeffectもLEDでできるようになった。

〇ホールの響きについて解説を交えたミニ演奏会
 解説:佐藤史明(千葉工業大学教授)
 演奏:山田実紀子(バイオリン)・佐藤ゆみ(ピアノ)
・まず反響板のないステージで演奏。倍音が返ってこない。Vnの音も小さく聴こえる。演奏者にとっても演奏が難しい。
・ベートーヴェンはコリオラン序曲を作曲した際、会場に響きが残ることを考えていたという記録がある。また、ブルックナーの曲が休符が多く長いことや、求められる音量なども会場の響きを考えていたことによると思う。
・大高正人は、残響の美しさを「音の雲」と表現していた。
・大高正人は、ホールに必要なものとして、適度な響きがあること、大き過ぎないこと、客席とステージが一体になること、バルコニーを深くし過ぎないことを挙げていた。
・ホール建設にあたっては、建築設計者に音響の知識があり、音響専門家の意見を聞くこと、施主に理解があること(施設の規模:採算を重視すると大きいホールを求めがちになる)が大切。

〔所感〕
・ミニ演奏会では、反響板のないステージでの演奏後に反響板を設置して演奏したが、反響板がある方がはるかに心地よい演奏に聴こえた。これは単に響きが豊かになっているということのためだけではなく、演奏者が自分の出す音の跳ね返りを聴きながら演奏することで、演奏者にとっても演奏がしやすくなるのではないかと思う。あらためてホールというのは楽器の一部であり、良い音響は良い演奏に不可欠と感じた。
・例えてみれば、反響板のないステージでの演奏は、ふれあいホールでの演奏を想起させ、反響板を設置した演奏は音楽ホールでの演奏といっても決して言い過ぎではないと思う。
・ホールとしての企画が乏しいとの指摘に対しては、千葉県文化振興財団から、千葉県少年少女オーケストラ(音楽監督:佐治薫子、団長:千葉県文化振興財団理事長)や千葉交響楽団(旧ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉)の実績を挙げていた。
・イベント終了後に舞台見学会が開催され、舞台裏で、森平舞台機構株式会社および丸茂電機株式会社の担当者から個別に話を聞くことができた(森平舞台機構は明治39年、丸茂電機は大正8年創業の老舗企業)。
・最近の技術の進歩は目覚ましく、担当者の感触では、多目的ホールでも音楽専用ホール並みの音響を確保することは可能とのことだった。ただし、シンプルなつくりの音楽専用ホールに比べ、多目的ホールは舞台機構など複雑な構造となるため費用は高くつくとのこと。
・緞帳をもつホールは減ってきている。幕は、緞帳のように吊り上げるものだけではなく、いろいろな開閉方法を持つものがある。
・近年、音響設計事務所(代表的なところはサントリーホール他を手掛けた永田音響設計)の存在感が増してきて、建築設計と音響設計のコラボが上手くいくようになっていることを実感しているとのこと。
・舞台照明にLEDを導入することにより、ステージ裏と舞台上の温度差が押さえられているのは音楽家にとっても良い影響をもたらせている。
・ホワイエにホールの1/100の断面模型が展示されており、製作者の千葉工業大学今村教授にホールの構造と音響設計について質問したが、もともとの地形を生かした建築設計がなされ、ホールの音響については、音の跳ね返りを計算したつくり(壁の反響板や天井の形状)になっていて、客席のどの位置でも音が良く聴こえるとの説明だった(客席数1,800)。私見だが、同じ時期に建設された東京文化会館(客席数2,303)の方が音が良いと思うが、その理由は反響板にあるように思った(東京文化会館の反響板は、音楽専用ホールに引けを取らないほど、音を客席に飛ばす力があるように感じている。千葉県文化会館の反響板は、多目的ホールに良く見られる鉄骨に反響板を張り付けたタイプだが、吊り下げているので、重量に制限があるのではないかという気がする)。
・千葉県文化会館にはオーケストラ・ピットがあるが、ピットの空間は音響的なデメリットにはならないとの見解だった。
以上
■もどる