ふれあいホールとの比較検証
2006年8月1日にオープンした、県と市の複合施設・けやきプラザのふれあいホールは、座席数551席の中規模ホールです。市では、このホールによって、ある程度市民会館の代替ができるという観点で、市民会館の閉鎖を決定しました。

実際にオープンを迎え、設備や機能面で、どの程度の利用ができるか検証しました。
【1.音響】
(1)8月20日、我孫子市民フィルによる55人編成でのオーケストラ演奏で、音響効果を検証したところ、バックの金管楽器の音は客席へよく伝わりますが、弦楽器の音が弱くなりました。これは反響板がステージ上部の3枚と、後方に反響壁がありますが、ステージ左右の壁は客席の壁と同じ構造のため、演奏音を前へ出す反響板の役を果たしていないことによります。
・これは市民会館。反響板は左右・上・バックともに音を客席へ出すように4面囲いになっています。 ・ふれあいホールの反響板は天井が主で、バックは下から2mの高さまでが反響パネル。それより上と左右の壁は、客席の壁と同じで、音を客席へ出す目的ではありません。ただし、ホールの広さからいうと、この程度でもよいのですが、バランスの点でやや難点が見られました。
(2)メインスピーカーが左右のフロントライトボックスに2基ずつ設置されていますが、パワーが不十分で、客席へ充分な音量・音質で届きません。CDなどの再生音楽によるコンサートやバンド演奏の場合、PA機材を独自に持ち込む経費を組めないアマチュア団体にとって、決定的に機材不足です。このタイプの演奏会に対しては、湖北公民館のほうがまだ上であるといえます。
・壁の中に収められた、フロントライトボックスに、スピーカーが左右2基ずつあり、客席後方と横を向いてセツトされています。
パワー・音質ともに講演会用で、コンサートで歌を聞かせることは、最初から目的にしていないように思われます。
・グランドピアノは、かなりの高級品が用意されています。(YAMAHA製)。音響機材のグレードとのアンバランスが目立つ、予算の使い方といえます。
・カラオケやバンド演奏のボーカルなら、湖北公民館のほうがいいでしょう。
(3)備品として使用できるマイクロホンの品質が、講演会レベルのもので、コンサート用のボーカルマイクといえません。グランドピアノのグレードと比較して、アンバランスな予算の組み方であり、多目的の公共ホールとして、どうしてこのような考え方をしたのか疑問です。

(4)音響設計についてはNHKのホール設計の技術者を招いて監修を受けたということですが、その方は、完成後に実際に観客を入れたオープニングイベントや、オーケストラ公演などに来場して、検証していただいたのでしょうか。ホールの音響というものは、単に機械で残響時間を計測すればよいというものではありません。ねらいどおりの納得のできる音響を実現できたのか、市としては監修した方のコメントをいただいて、発表してほしいと思います。
【2.照明】
(1)市民会館のようなシーリングライトボックスがなく、明かりの調整がしづらい。

(2)サスペンションライトが2列設計で、ステージの奥行きを考えると1列足りません。予想通り8/20のオーケストラ演奏では、ステージ奥の金管楽器演奏者に照明が不足し、譜面を見るために反響板の水銀灯をつけていました。

(3)全体に照明機材の量は、プロの劇団の公演に耐えるレベルにないので、機材を追加持込みする必要がありますが、最悪なことに機材を持ち込んでも電源そのものの余裕がないため、使用できません。そのつど電源車を手配することは、主催者にかかる経費や駐車場所、近隣への騒音を考えると困難で、事実上プロ劇団の公演に必要な舞台照明はできないということです。
・シーリングライト16台は、吊りものなので当たりを変えるのはめんどうです。 ・サスペンションライトは2列で、この間隔を見ると、ちゃんとした照明には3列ほしかった。
【3.舞台】
(1)袖幕を降ろした劇場仕様の場合でも、両ソデだまりが狭いため、出演者の出入りや控え、道具の準備などに支障があります。
・これが下手側のソデだまり。約3m幅です。 ・上手は手前2m幅。奥へ行くにしたがい狭くなって、最奥では50cmほどになってしまいます。
(2)ステージ両側の壁を閉じたコンサート仕様の場合は、両ソデのスペースはさらに狭くなり、下手側で約3メートル幅、上手にいたっては2メートルもない状態で、ソデだまりというより単なる通路でしかありません。

そのため、合唱など大勢の出演者が上手へ退場する場合、通路に人が溜まってしまい、ステージ上に団子状態になって待機するということになってしまいます。(右の写真)
(3)楽屋が3室しかなく、出演者や演奏者の準備に必要なリハーサル室がありません。現市民会館の場合も、ステージ裏の楽屋だけでは大人数の出演者を収容できないため、大会議室や2階の小会議室など全館を利用するわけですが、ふれあいホールの場合は7階の研修室は県の福祉プラザ施設、8階の近隣センター会議室はまちづくり協議会の管理という具合に、複合施設であるために管理者が異なり、一括して予約手配ができません。借りられるかどうかも分からないので、公演を準備していくうえで大きな支障になります。
・ステージ裏の楽屋は、10人用が2室と、応接セット付きで指揮者や講師用の控室という設計です。 ・7階の研修室は福祉施設管理なので、予約が一括でできません。
【4.客席】
(1)収納式の座席なので、長時間座っていると疲れる・腰が痛い、といった感想が体験者から聞かれます。仮設のわりにはいいものを選んでいるとも思いますが、やはり常設の劇場用座席と比較するのは無理です。お尻が痛いと、いくら舞台の内容がよくても、楽しめなくなります。
(2)収納式の客席ひな段は仮設なので、歩くとフロア全体が少し揺れて不安を感じます。やはりいい舞台はいい客席で楽しみたいものです。
(3)550の客席数では、プロのミュージシャンや劇団を呼んで、芸術性の高いステージを市民に見せることが困難です。総経費500万円の公演に対して、客席が1,000席あればチケット5,000円で完売すればペイしますが、500席だとチケットを1万円にする必要があります。とはいえ、都内での一般公演で5,000円が妥当なクラスの公演に、席数が500なのでチケットは1万円です、と説明しても買う人はあまり望めません。結局、座席数が少ないとプロのステージは呼べないのです。
2回公演にすると、出演料も1回分というわけにはいかないので、公演回数を増やしてペイすることも無理です。
※実際には千席でもやや少なく、有料公演でペイさせることのできる座席数は1,200席くらいといわれています。
(4)出演者が総勢800人といわれる合唱連盟による合唱祭、フルオーケストラ80人編成の市民フィル、フルオケの演奏と200人のキャストによる市民ミュージカルや市民オペラ、年末の「第九」コンサートなど、我孫子の市民文化を感じさせる大きなステージが、550席のホールでは今後すべて消えてしまうことになります。
市内の小中学校単位で市民会館を利用して行われてきた、全校生徒参加による合唱祭や、吹奏楽部の演奏会などもできなくなります。我孫子市の学校は、全国の合唱・吹奏楽コンクールで上位に入るレベルを築いてきたのに、千人ホールがなくなってしまうことによる、市民文化の損失は大きなものがあるといえます。
・出演者200人、80人のオーケストラ、千人の客席で埋まった、市民ミュージカル(2003夏)。

・「第九」合唱も同じ規模になります。合唱連盟による合唱祭は、出演者だけで総勢800人の規模です。我孫子市にはこれだけの文化活動が、市民の財産として存在しているといえます。
【まとめ】
ふれあいホールは、当初体育館でしかなかったものを、このレベルの中規模ホールに変更いただいたことは、関係者の努力を含めて充分に評価すべきことと思います。とはいえ、これで市民会館の代替施設というレベルに位置づけられるか、ということとは別の問題です。

あびこは手賀沼のほとりに文化人が集った文化のまちということで、市民の文化活動が盛んなことや、ゴミの分別協力度が全国有数の高さとか、市民参加や文化意識の高いまちというイメージを対外的に築いてきました。

特に産業や名産のない我孫子は、この点くらいは維持していかないと、市民の心の拠り所がなくなってしまいます。
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